わが国では諸外国に先立って人口高齢化率が20%を超え、認知症対策の重要性が益々クローズアップされている。認知症の原因疾患の中でも大きな比率を占め、加齢との関連が深いアルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)の原因究明ならびに治療・予防法開発は、老年精神医学の最重要課題のひとつである。加齢に伴う種々の退行性変化が酸化ストレスと関連することは、多数の研究によって支持されているが、近年、ADの病態にも酸化ストレスが密接に関連することが示唆されてきた。 本研究では、脳の酸化傷害と認知機能障害発現との関連性について解明することを目的に、対照例、preclinical AD例(ADに合致する病理変化はあるが、Clinical Dementia Rating (CDR)スコア0の認知機能正常例)、最軽度AD例(AD病理変化があり、CDRスコア0.5の軽度認知障害例)、および軽度AD例(AD病理変化があり、CDRスコア1の軽度認知症例)の4群から採取した剖検脳を用いてADの発症前後の脳の酸化傷害レベルの変化について検討した。すなわち、各群の剖検脳組織切片上で核酸の酸化傷害の指標である8-hydroxyguanosineを免疫細胞化学的に検出し、画像解析による半定量的解析を行った。また、ヌクレアーゼ前処理による免疫反応性の変化も検討した。その結果、神経細胞内の核酸酸化傷害は、対照例(0.3~86歳)において加齢に伴って増加し、酸化される核酸は主としてRNAであった。また、神経細胞内の核酸酸化傷害の程度は、preclinical AD群では対照群と有意差がなかったが、最軽度AD群・軽度AD群では加齢性の増加の範囲を超えた顕著な増加が認められた。したがって、脳の酸化傷害が加齢性変性性認知症における認知機能障害発現と密接に関連していることが示唆された。
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