本研究は、統合失調症をはじめとする精神疾患における社会認知の障害の特徴を明らかにすることを目的としている。そのために、社会認知機能の重要な構成要素である心の理論(Theory of Mind)とに注目し、まずはその標準的な検査を確立したいと考えた。昨年度に作成した欧米ですでに使用されている心の理論課題の日本語版を用いて、統合失調症、初回エピソード精神病、精神病発症危険群での評価を行った。その結果、精神病発症危険群においても、精神病とほぼ同等に社会認知が障害されることが分かった。このことは、精神病発症の病態を明らかにする上でも重要であり、今後は、脳血流変化などで評価される脳機能や頭部MRI(magnetic resonance imaging)検査で捉えられる脳構造との関連なども含めて検討して行きたい。また、他の認知機能障害と社会認知機能障害との関連についてはまだ明らかになっていない点が多いため、現在は、心の理論課題と包括的な認知機能評価バッテリーである統合失調症認知機能簡易評価尺度(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia ; BACS)日本語版とを組み合わせて検討を行っている。 また、本年度は、統合失調症をはじめとする精神病性障害での社会認知機能障害と前頭葉機能との関連を検討するため、予備的に、神経認知課題を施行している際の前頭葉血液量変化を調べる研究を行った。その結果をまとめ、学会等で発表した。その他、精神疾患での認知機能障害について、薬物との関連や心理的要素の関与などについても検討を行った。
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