非行・犯罪を惹起した発達障害児・者の責任能力、訴訟(審判)能力、受刑(処遇)能力、および情状鑑定の果たす社会的役割について、精神医学・法律学にまたがる多角的・学際的観点からの検討に着手した。まず、国内外の司法精神医学領域における文献の検討を開始するとともに、こころのクリニック・木村一優医師、京都市児童福祉センター・門眞一郎医師、根岸いんくる法律事務所・副島洋明弁護士、ゆり綜合法律事務所・川村百合弁護士との情報交換を行なった。具体的には、それぞれの医師・弁護士ないし研究代表者が直接的・間接的に関与した司法事例の検討を通じて、精神・心理鑑定の現状、とりわけ法廷における位置づけられ方(裁判員裁判のための模擬裁判を含む)を整理した。以上をもとに、3本の論文(「広汎性発達障害と精神鑑定」「アスペルガー症候群と就労」「少年の裁判員裁判と精神医学の役割:模擬裁判の経験から」)を執筆し、うち1本は掲載され、他の1本が印刷中であり、残りの1本が査読中である。また、1冊の著書(「発達障害は少年事件を引き起こさない」)が印刷中であり、別の1冊が準備中である。以上の成果は、平成21年度以降における本研究の基礎を形づくるものであり、かつ、精神科医と法曹家のあいだのコンベンションの形成を通じて、新しい裁判員裁判が開始された後の精神・心理鑑定のあり方や、受刑(処遇)後の就労を含めた社会復帰のための方法論にも影響を及ぼすものである。
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