非行・犯罪を惹起した発達障害児・者の責任能力、訴訟(審判)能力、受刑(処遇)能力、および情状鑑定の果たす社会的役割について、精神医学・法律学にまたがる多角的・学際的観点からの検討を継続した。同時に、これらが裁判員裁判に及ぼす影響についても研究した。具体的には、昨年度に引き続いて国内外の司法精神医学領域における文献を検討しつつ、今年度は多田法律事務所・多田元弁護士、名古屋南部法律事務所・高森裕司弁護士、真和法律事務所・相川裕弁護士との情報・意見交換を行なう中で、それぞれの弁護士と研究代表者が直接的に関与した司法事例の検討を通じて、精神・心理鑑定の現状と法廷における位置づけを整理した。以上をもとに、第50回日本児童青年精神医学会において学術発表を行ない、また論文「司法をめぐる問題」を執筆し掲載されるとともに、単行書「少年事件 心は裁判でどう扱われるか」を上梓した。以上の成果は、精神科医と法曹家とのあいだのコンベンションの形成を通じて、精神・心理鑑定の在り方や、非行・犯罪を惹起した発達障害児・者に対する理解の促進につながるものである。なお、上記単行書は、少年事件に携わる弁護士による全国付添人経験交流集会や、発達障害を有する受刑者の社会復帰を支援するNPO法人が主催する集会でも大きな反響を産み、また精神医学関連の専門誌「精神医療」および「児童精神医学とその近接領域」でも書評として取り上げられる予定である。
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