非行・犯罪を惹起した発達障害児・者の責任能力、訴訟(審判)能力、受刑(処遇)能力、および情状鑑定の果たす役割について、精神医学-法律学にまたがる多角的観点からの検討を継続発展させた。具体的には、昨年度までの研究に立脚して詳細な文献および事例研究を行い、金岡繁裕弁護士らによる「訴訟能力研究会」において法曹と精神科間の学際的討議を実現した。その骨子は、本邦で初めて自閉症者の訴訟無能力を導き出したわれわれの精神鑑定事例を素材に、抽象概念の理解能力・コミュニケーション能力・訴訟能力判定のための構造化面接ツールの意義と限界を、精神医学者と法曹との間で共有する点にあった。なお、内容の一部は、法律専門誌「季刊刑事弁護」に掲載されている。並行して、日本と諸外国の状況を比較検討し意見交換をするために、第16回国際児童青年精神医学会において学術発表を行った。また、単行書『精神鑑定とは何か』を上梓し、法律実務家(大石剛一郎弁護士ほか)との意見交換を通じて成果の還元を行った。その骨子は、責任能力鑑定に比して本邦では重視されてこなかった訴訟能力鑑定・情状鑑定・受刑能力鑑定の意義と方法論を展開する点にあった。ちなみに、上記書籍は精神医学専門誌「精神医療」で書評として取り上げられる予定である。以上の研究は、裁判員が正確な判決に寄与しうるための枠組みを提供するものであり、国民の視点に立った司法の確立に貢献する意義を有している。
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