研究課題
自閉症研究ではセロトニン機能異常の重要性が指摘されているが、その発症基盤は明らかでない。我々は自閉症者における中枢神経内セロトニン・トランスポーター(SERT)の広汎な密度低下および末梢血リンパ球内のインテグリンss3サブユニット(ITGB3)mRNAの低下を見出したことから、SERTの発現とその調節因子は自閉症の病態に重要な役割を果たしていると考え、SERTの発現を調節しているとされるSTXIA・ROBO3・ITGB3・MacMARCKSの遺伝子についてmRNA発現解析と遺伝子関連研究を行い、各々の自閉症との関連を検討した。死後脳研究として、4つの因子に対するmRNAの発現の相異を検討した。検討部位は前帯状回・皮質運動野・視床とした。これらのサンプルにqRT-PCRを施行し、遺伝子発現の変化は2-DDCTによって決定した。その結果、STX1Aの発現が前帯状回で有意に減少していた。また、ROBO3の発現は前帯状回と皮質運動野で、ITGB3の発現は前帯状回と視床で、MacMARCKSの発現は前帯状回でそれぞれ有意に増加していた。この結果をSERTKOマウスで検証するため、脳内のin situ hybridizationを行ったが、同様な分子発現の再現性は得られなかった。また、自閉症者死後脳中のSERTの定量結果は正常であった。以上より、自閉症中枢神経内SERTの広汎な密度低下は、発現低下に起因するものではなく、細胞内のSERT輸送異常により細胞膜内に正しく運ばれないことが原因として疑われた。そこで今年度でこの計画は終了し、今後の自閉症セロトニン機能研究は脳内のSERT細胞内輸送異常に焦点を当てた研究計画を推進することとした。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry
巻: 35(2) ページ: 454-458