前年度から引き続いて、統合失調症モデルマウス(14-3-3epsilonノックアウト(以下KO)マウスおよびPCP連続投与マウス)を用いて、神経病理学的な検討を行った。 今年度は、1)14-3-3epsilonKOマウスの脳において、TH免疫染色をおこない、前頭葉皮質への投射線維を観察した。THは、主としてドーパミン作動性のニューロンのマーカーであり、統合失調症の病因としてドーパミン仮説が従来からいわれている。もし、統合失調症の前頭葉の機能不全が病因の背景にあるとすれば、神経病理学的に変化が観察されることが推量される。今回は、顕微鏡で観察された陽性線維を、コンピューター画像上でその長さを計測し、その長さごとのヒストグラムを作成した。その結果、モデルマウスの皮質におけるTH陽性線維は、野生型のそれと比較して、短小化あるいは細小化していた。また、ドーパミン作動神経の起始核の一つである青斑核におけるTH陽性細胞の観察において、野生型マウスと比較して陽性細胞の狭小化、細胞密度の現象が観察された。これらのことは、モデルマウスにおいて、ドーパミン神経系のネットワーク形成不全を示しているのではないかと考えられた。2)14-3-3epsilonKOマウスとPCP投与マウスの脳で、VMAT2免疫染色をおこない、海馬での発現について観察した。VMAT2はシナプス内でモノアミン神経伝達にかかわるタンパクであり、特に覚せい剤の連続投与によって低下することが知られている。その結果、対照と比較し14-3-3epsilonKOマウスではVMAT2の発現増加、PCP投与マウスでは発現の現象が観察された。このことは、統合失調症の病因にVMAT2が大きくかかわっているということとを示し、統合失調症のモデルマウスでもその病理背景は全く違うことが示唆された。(776字)
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