研究課題
神経変性性認知症の中で、アルツハイマー病(AD)は最も頻度が高く、前頭側頭型認知症も頻度は少なくない。ADの神経病理学的変化としては神経原線維変化、老人斑、炎症性変化、神経細胞およびシナプスの喪失が知られているが、それぞれの変化がどのように関わり合っているかは明らかではない。AD脳内ではミクログリアの活性化および補体やサイトカインの分泌などの炎症性変化が以前より指摘されているが、近年免疫学においては自然免疫システムのメカニズムが明らかにされ注目を浴びている。ショウジョウバエで発見されたToll蛋白は膜貫通型受容体であり、感染性異物の認識に自然免疫として関与しているが、哺乳類においては、Toll-like receptors(TLRs)が自然免疫に関係する新しい蛋白質群を構成しており、中枢神経系においても発現が認められている。正常脳およびAD脳におけるTLR-3の発現レベルをReal-Time Quantitative RT-PCR(ABI prism7900Sequence detection system)によって定量し、比較検討をところ、AD脳においてTLR-3は有意に発現亢進していることが認められた。さらに、免疫組織化学的にAD脳内でのその発現分布の検討(神経原線維変化および老人斑との関係)の検討をおこなったところ、老人斑内にいくつかのTLR-3陽性細胞が認められたが、神経原線維変化とTLR-3陽性細胞との共在は認められなかった。さらに、アミロイド高発現トランスジェニックマウスTg2576におけるTLR-3の発現レベルの検討を行ったところ、コントロールマウスに比ベアミロイド高発現トランスジェニックマウスにおいてTLR-3は有意に発現亢進していることが認められた。以上より、アミロイド産生過剰はTLR-3を通してADの炎症性変化に関与している可能性が示唆された。
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