アンギオテンシンII (Ang II)の生成および作用と深く関わる高血圧、糖尿病やメタボリックシンドロームが、アルツハイマー病の危険因子であることが疫学的に証明されている。また、Ang II受容体阻害薬はアルツハイマー病の予防と治療に有効であることが報告され始めている。本申請者らはアルツハイマー病の重要な病原物質であるアミロイドベータ蛋白(Aβ)がアクチン(細胞骨格の一種)を凝集させ不可逆性に軸索輸送を障害することを以前に報告した。本研究では、Ang IIの軸索輸送への効果、および、Ang IIがAβの作用を増強するか否かについて検討した。ビデオ増感顕微鏡を用いて培養ラット海馬ニューロンの神経線維における膜性オルガネラの軸索輸送を観察した。Ang IIは濃度依存性にオルガネラの軸索輸送を抑制した。この効果はAng IIの洗浄により元に戻った。また、Ang IIが神経線維径を減少させたことも観察された。すなわち細胞骨格に変化をもたらした可能性がある。実際、Ang II処置ニューロンではアクチンフィラメントの重合が起こることが見出された。さらに、AngIIはAβの軸索輸送障害作用を増強させた。本研究により、Aβの神経毒性がAng IIによって増強され、その作用は細胞内アクチンの変容を介して起こることが示唆された。よって、Ang IIはアルツハイマー病の進行に関与する可能性がある.
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