研究概要 |
本研究は強迫性障害の治療前後における認知機能、および脳機能の変化を治療法別に検討することにより、本疾患の病態生理をより明らかにすることを目的とした。 対象は、18歳から60歳の外来患者で、構造化面接によって強迫性障害と診断され、他の精神疾患、知的障害を合併しない、強迫症状が中等度以上のものである。対象患者を12週間の薬物療法、行動療法、プラセボ治療に無作為に割り付け、治療前後に臨床評価(Y-BOCS,CGI-I等)、数種の神経心理検査(WAIS-R,WMS-R,WSCT,Stroop,ROCFT等)、Stroop課題等の賦活課題を用いたfMRI撮影を試行し、治療前後における臨床症状、認知機能、脳機能画像上の変化とその関連を検討することとした。 RCT後前後の撮像ができたものが現在まで薬物療法群9人、行動療法群11人、プラセボ群7人で、YBOCSの総得点がそれぞれ30.9%,59.0%,11.0%改善した。また、Stroop課題を施行時の治療前後のfMRI画像についてSPM2を用いて解析したところ、薬物療法群、プラセボ群では治療前後で有意な変化を示した脳部位は認められなかったが、行動療法群では治療後に左紡錘状回、左中前頭回の賦活が有意に減少し、両側小脳後葉、右上後頭回、左上頭頂小葉等の賦活が有意に増加していた。他の合併症や薬物の影響を受けずに治療前後の変化を検討できたことは意義深い。この結果は、これまで指摘されているいわゆるOCDループのみならず、小脳を含む後方脳と本疾患の病態生理との連関を示唆するものと思われる。薬物療法群では症状の改善率が低く、対象者が少数でもあり、今後症例数を増やし、また、統制群の変化との比較を検討する予定である。
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