原発性過眠症の社会生活機能に及ぼす影響と、交通事故関連要因について検討するため、未治療の情動脱力発作を伴うナルコレプシー(NA-CA)28名、情動脱力発作を伴わないナルコレプシー(NA w/o CA)27名、非長時間睡眠型特発性過眠症(HIS w/o LST)81名について、SF36を自記させるとともに、過去5年間での交通事故既往を聴取し、臨床的指標との関係について調査した。 その結果、これらの疾患において、身体機能には国民標準値との差はみられなかったが、精神的健康度は有意な低下傾向が認められた。しかしながら、各疾患間では、一定の差異はみられず、SF36得点の低下に関与する臨床指標は確認されなかった。交通事故発現に関しては、自覚的な重症度を示すEpworth Sleepiness Scale(ESS)得点の上昇がその発現に関与する有意な関連要因となっていた。以上より、原発性過眠症が精神的な健康度に関与すること、眠気の上昇が、事故発現に結びつくことが確認され、これらを念頭に置いた、治療的対応が重要であると判断された。 また、同様の三群に対し、反復睡眠潜時検査(MSLT)所見、治療薬用量(メチルフェニデート換算)を調べるとともに、治療前後のESS得点を調べ、各疾患の重症度ならびに治療反応性を検討した。その結果、NA-CA群と、NA w/o CAでヒト白血球抗原(HLA)DQB1*0602陽性群は、自・他覚的な眠気症度はほとんど差がなく、治療反応もほぼ同様であったが、NA w/o CAでHLAマーカー陰性の群とHIS w/o LST群は、これら二群に比べて有意に眠気症度が低く、治療薬反応(治療後のESS低下率)は高かった。特にNA三群の中で、MSLT上でのREM睡眠潜時は、NA-CA=NA w/o CA(HLA陽性群)>NA w/o CA(HLA陰性群)の順であった。 本研究結果は、ナルコレプシーの中で特にHLAマーカーの陽性/陰性が、眠気症度ならびにREM易発現性に関与していること、NA w/o CA(HLA陰性群)が、REM睡眠易発現性以外、HIS w/o LSTに近い存在であることを示している。
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