研究概要 |
本年度は実験装置使用期限の関係もあり,当初の予定を変更して過偏極した炭素化合物の特性とがん細胞に投与した際の代謝物変化について検討した.過偏極にはHypersense(Oxford)を用い,NMR測定装置にはDRX600(Bruker)を用いた.使用したがん細胞は,C3Hマウス由来のFM3Amammary carcinomaである.がん細胞はRPMI1640培地を用いて48時間培養したが,その際にグルコースのない培地も作成してその有無による代謝の違いを比較した.また,培養時に抗がん剤である5FUを投与したものと,対照群としてUracilを投与したものも作成・測定し,その変化を観察した. 種々の炭素化合物のT1値を測定した結果,以下のようになった.1-13C-Pyruvate=51.5±0.8sec,1-13C-Glycine=42.9±0.5sec,1-13C-Acetate=51.5±1.3sec,1-13C-Glutamate=17.6±0.1sec,1-13C-Glucose<2sec.特にグルコースはTI値が非常に短く,過偏極の対象にはなりにくいことが示されるとともに,1-13C-PyruvateやAcetateが良い対象になることが示唆された.1-13C-Pyruvateを培養細胞に投与した結果,Pyruvateの投与と共にLactateの代謝が観察された.これらの運度定数をDayら(Nature medicine,2007)の理論式を元に算出すると,5FU投与群とUracil投与群でほとんど差がないこと,およびグルコースなしでの培養の場合はグルコース有りに比してLactateの速度定数が非常に長いことが示された.これらは,炭素化合物を用いた代謝状態の可視化の可能性を示唆するものであると考えられた.
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