ポジトロン断層撮影法(PET)での遺伝子改変マウスなど小動物対象の研究の一つとして、脳神経疾患の病態・治療研究を目的とした放射性薬剤(リガンド)の、動脈血中リガンド濃度変化(pTAC)とともにPETデータ解析を行う生理学的パラメータの定量法の確立が必要である。前年度は採血量に限界があるマウスにおいて、動態解析による定量が十分可能な入力関数の測定方法の開発を、採血回数・採血量など若年健常マウスを対象として検討を行った。今年度はアルツハイマー病モデルマウスである、アミロイド前駆体蛋白遺伝子改変(APP-Tg)マウス(24-26ヶ月齢)を対象に、アミロイドβペプチド(Aβ)に親和性を持つ^<11>C-PIBをリガンドとして用い、PET撮像ならびに大腿動脈からの採血による入力関数測定を行い、コンパートメントモデル解析およびグラフ解析法で動態パラメータV_Tを算出した。Aβが蓄積しない小脳でのV_T値は若年マウスより高齢マウスの方が有為に高かった。このことは、^<11>C-PIBのマウスでの脳内および末梢での薬物動態にAβとは別に加齢が関与すると考えられた。また、Aβ蓄積量の指標として、小脳のV_T値を基準とした分布容積比DVRを求めた。DVRは大脳皮質および海馬でAβ蓄積に応じ1.1から1.8程度の値となった。pTACを用いた解析法のDVRとPETデータのみで解析する方法(参照領域法)で算出されたDVRを比較したところ、両者はr^2=0.95の良好な直線関係にあることが示され、非侵襲な参照領域法によるAβ蓄積評価が可能なことが示された。このことは、同一の個体で病態の進行や、薬物治療によるAβ除去効果の定量的評価を複数回にわたり追跡実験の実施が可能であることを示すことができた。
|