本研究の目的は、相同組換え機構の解析を通じて、放射線治療を核とする個別化がん治療を開発するための分子遺伝学的基盤を構築することである。減数分裂期特異的な相同組換えに関与する分子の中に、正常の体細胞では一切発現しないが体細胞であるヒトのがん細胞において異所性に発現しているものが存在することに着目し、その体細胞での役割について重点的に検討を行っている。平成20年度までに、ヒトのがん細胞株や様々な腫瘍検体において異所性に発現しているシナプトネマ複合体形成分子SYCP3の正常体細胞に安定に強制発現させた株を複数樹立し、野生株に比べ、電離放射線やDNA架橋剤であるシスプラチンに対する感受性の亢進が見られること、放射線照射によるDNA損傷依存的なRad51のフォーカス形成能が低下していることを見いだした。平成21年度は、SYCP3を発現させるがん細胞において、RNA干渉法によりSYCP3の発現を低下させると、DNA損傷依存的なRad51のフォーカス形成能が回復することを確認した。これらのことから、SYCP3の体細胞での異所性発現は、体細胞における正常の相同組換え修復能の低下をもたらして放射線に対する感受性の亢進を来し、同分子の異所性発現が放射線やシスプラチンを用いた治療に対する高感受性のマーカーになる可能性が示された。続いて、SYCP3がどのような分子機構により相同組換え修復能り低下をもたらすかについて、相同組換えの様々な過程に働く分子との相互作用に着目しながら検討を進め、SYCP3の標的となる候補分子を探索した。
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