研究概要 |
サイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase : CDK)はセリン・スレオニンキナーゼで、サイクリンと呼ばれる調節サブユニットと結合して活性化され、CDK1 (CDC2), CDK2, CDK4, CDK6が主に哺乳動物の細胞周期進行に働いている。このことからCDKは古くから制癌剤の標的として注目されてきている。また細胞周期の調節にはCKI (CDK inhibitor)と呼ばれるブレーキ役の阻害たんぱく質が結合してキナーゼ活性を調節している。ブロッコリーなどに多く含まれるsulforaphaneは、発癌予防効果が知られているが、その作用にはCKIの発現増強が関与していることが知られている。我々はsulforaphaneがヒト由来の癌細胞の放射線感受性を高めること、そしてそのメカニズムにはDNA二本鎖切断の修復系の非相同末端結合と相同組換えの両方を阻害することによることを報告した。SulforaphaneはIsothiocyanateに属する。本年はその他のisothiocyanateに含まれる類縁体のヒト癌細胞に対する放射線増感効果について検討した。 調べた物質はsusulforaphaneのほかに、Benthyl isothiocyanate (BITC)、Allyl isothiocyanate (AITC)、Phenethyl isothiocyanate (ITC)である。実験にはヒト膵臓癌由来の培養細胞、PANC-1とMiAPaCa-2を用いた、放射線増感効果はsulforaphaneが最も大きく、次いでBITCであり、AITCとPITCは放射線増感効果は大きいものではなかった。そこで、BITCの放射線増感効果について詳細にそのメカニズムについて調べた。BITCと放射線の併用による放射線増感には両方の膵臓癌細胞で、放射線誘発アポトーシスの増強が観察された。このアポトーシスの増強には、アポトーシス誘導を阻害するタンパクであるXIAPの発現がBITCの投与により低下が観察され、またcaspaseの活性を増強するApaf-1の発現の増加が観察された。これらの結果はsulforaphaneに加え、BITCも放射線治療の増感剤としての可能性を示唆するものである。
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