これまでにNBS1標的siRNA(NBS-siRNA)およびXIAP標的siRNA(XIAP-siRNA)は非小細胞肺がん細胞(H1299)の放射線感受性を高めることを明らかにした。興味深いことにこれらのsiRNAによる放射線増感効果は変異型p53を導入したH1299細胞(H1299/mp53)の方が正常型p53を導入したH1299細胞(H1299/wt p53)よりも顕著であった。この結果は変異型p53細胞優位な放射線増感を得るには細胞生存シグナル伝達因子の発現を抑制することが有効な手段であることを示唆している。この変異型p53細胞優位な放射線増感放射線のメカニズムを調べるため、放射線によって誘導される細胞生存シグナル伝達因子の発現がp53依存的に抑制されるかを昨年度まで検討してきた。その結果、p53タンパク質と細胞生存シグナル伝達の中心的な役割を果たしているAKTタンパク質が細胞内で結合していることが免疫沈降法によって明らかとなった。 本年度はp53タンパク質とAKTタンパク質とのタンパク結合による細胞生存シグナル伝達因子の抑制がどのようなメカニズムで生じているのかをシグナル伝達因子阻害剤でAKT活性を阻害することによって検討した。AKTの間接的阻害剤であるWortmaninとLY294002を用いてAKT活性阻害が及ぼすp53依存的放射線感受性への影響を調べた。その結果、H1299/wtp53細胞及びH1299/mp53細胞ともWortmaninならびにLY294002によって放射線感受性がp53非依存的に増強された。この結果から、正常型p53によるAKT活性抑制によって正常型p53細胞は変異型p53細胞に比べ放射線感受性が高いこと、AKT活性抑制は正常型p53によって完全に抑制されていないため、WortmaninとLY294002によってp53非依存的放射線感受性が観察されたものと考えられる。このことから、正常型p53による部分的なAKT活性抑制がsiRNAによる変異型p53細胞優位な放射線増感の一因である可能性が示唆された。
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