種々の自己免疫疾患でみられた小線量γ線照射による抗炎症作用の分子機構を明らかとするため、マクロファージ(RAW264.7)を用いてp38 MAPK活性化を介したTNF-α産生に対するγ線照射の影響について検討を行った。その結果、照射15分後にERK1/2およびp38 MAPKのリン酸化(活性化)が0.5 Gy照射によって減少した。一方で、MKP-1の発現を検討した結果、照射15分後にMKP-1の発現上昇が認められ、p38mPKおよびERK1/2の脱リン酸化は甑P-1増加によってもたらされている可能性が強く示唆された。さらに、照射によるMKP-1発現増加はmRNA転写活性増加ではなく、プロテアソーム系の一過性な機能低下を介したものである可能性が示唆された。これらの結果より、0.5Gyγ線照射によりMKP-1発現増加を介したp38 MAPK活性化抑制効果が示唆された。 次に、小線量γ線照射による制御性T細胞(Treg)の割合増加のメカニズムを本細胞の放射線感受性の観点から検討した。この結果、本細胞の感受性は他のCD4^+T細胞と変わらないことから、小線量のγ線が未分化T細胞からTregへの分化誘導を制御することが示唆された。さらに、γ線照射により細胞外にATPが放出、その後アデノシンにまで分解後、アデノシンA_2B受容体を介してTregの分化誘導に関与することが明らかとなった。 本研究により、低線量放射線による自己免疫疾患改善メカニズムが解明され、さらにTreg分化における新規メカニズムが解明されたことは免疫系の異常により発症する各種難治性疾患の治療や臓器移植後の拒絶反応及び移植片対宿主病の予防に新しい方向性を示すことができると考えている。 なお、小線量γ線によるTreg誘導の移植片拒絶反応に対する検討では、同種間並びに同種異系間皮膚移植、何れもも、γ線照射による移植片拒絶反応は抑制されなかった。
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