放射線による影響として放射線治療に伴いアテローム性動脈硬化症の進展が生じることが示唆され、一方でアテローム性動脈硬化症とアポトーシスは密接に関連していることが明らかにされつつある。放射線治療に伴う被ばくによるDNA損傷、アポトーシス誘起は副次的障害を考えるうえで重要な指標であることから、放射線誘導性アポトーシスとアテローム性動脈硬化症の発症との関連を調べるため血管平滑筋細胞の初代培養系を用いて解析を行なった。これまでにマウスから採取した血管平滑筋細胞の初代培養系を確立し、放射線や各種ストレスを用いて試験したところ酸化型LDL(低密度リポタンパク質)と放射線照射の組み合わせでアポトーシスによる細胞死が顕著に誘導されることを見出しその機構解析に着手した。本培養系を用いてH2O2(過酸化水素)による酸化ストレスや低酸素ストレスによる変化も解析したが放射線との組み合わせによる変化は生じなかったため、酸化型LDL特異的シグナリング系が関与しているものと推察された。特に照射前の酸化型LDL導入では放射線との複合効果としてのアポトーシスは起こるが、放射線照射後で導入した場合にはそのような複合効果は生じないことを明らかにしたことから、酸化型LDLが誘起するシグナリング系の放射線への修飾効果が重要であることが考えられた。また非酸化型LDLでは酸化型LDLのような複合効果はみられなかった。このことは単にLDL量の増加のみでなく酸化的状態の亢進などの生体内での状態変化がアポトーシスの複合的誘起には重要であることを示している。加えてプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤で複合効果が阻害されることを示し、放射線が修飾する本シグナリング系ではPKCが重要な関与をすることを明らかにした。
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