放射線誘導性アポトーシスとアテローム性動脈硬化症の発症との関連を調べるため血管平滑筋細胞の初代培養系を用いて解析を行なってきた。これまでにプロテインキナーゼ(PKC)が介在する細胞情報伝達系により酸化型IDL(低密度リポタンパク質)による効果と放射線被ばくによる効果の併用効果が生じる可能性を明らかにした。今年度はその細胞情報伝達系をさらに詳細に明らかにするためにPKCによりリン酸化されるタンパク質のリン酸化部位を特異的に認識する抗体を用いて、細胞内タンパク質のPKCのリン酸化による変化を解析した。酸化型IDLにより血管平滑筋細胞においてリン酸化が誘導される分子バンドを検出した。そのバンドは放射線照射のみではリン酸化のシグナルは対照レベル以下に消失するが、酸化型LDLと放射線の併用時には酸化型LDL処理時のレベルに戻っていた。さらに動脈硬化発症モデルマウスであり放射線照射で動脈硬化の進展が加速化されるApoE(-/-)マウス由来の血管平滑筋細胞を用いた実験でもほぼ同様の傾向がみられた。このことはPKCの細胞情報伝達系が放射線誘導性アポトーシスの誘起に関与し、それが動脈硬化の進展と関連しているとすれば、ApoE(-/-)マウスの結果は細胞自体の性質ではなく代謝系変化による細胞外環境変化によるものだということを示唆するものである。実際にApoE(-/-)マウスの動脈硬化症は血液内成分の変化など様々な変化が関与していることが示されつつある。また一方で酸化型LDLの主要な酸化脂質成分であるHNE(4-hydroxy Nonenal)による放射線誘導性アポトーシスへの修飾効果を調べてみると酸化型LDLと同様に修飾しうることを示唆する結果を得た。これらから放射線によるアポトーシス誘導における酸化脂質の修飾効果が重要であり、高脂肪食マウスやApoE(-/-)マウスで報告された放射線による動脈硬化様障害の進展は、酸化脂質が放射線によるアポトーシス誘導を増強させ、その過程にPKCの細胞情報伝達系が介在すると考えられる。
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