研究概要 |
近年、癌組織においても正常組織と同様、自己複製能と多分化能を保持した幹細胞が存在し、幹細胞を頂点とした階層的な細胞社会が存在することが明らかになりつつある。癌幹細胞は腫瘍形成に寄与するだけでなく、転移や再発の原因となっていると考えられている事から同細胞群の特性解析は非常に重要なものであると言える。大腸癌においては既にCD133等の細胞表面抗原の発現を指標に癌幹細胞の分離・同定がなされているが、その分離純度は低く癌幹細胞の詳細な特性解析を行うには不十分である。従って、本研究ではより高純度な癌幹細胞の分離を目指すと同時に、癌幹細胞の存在が示唆された細胞群の特性解析を実施した。まず正常組織幹細胞と癌幹細胞の類似性に着目し、正常大腸上皮における幹細胞マーカーを探索した。その結果、腸管幹細胞が存在する大腸陰窩底部においてCD44の限局的な発現が見られたため、このCD44と既存の癌幹細胞マーカーであるCD133を組み合わせる事で癌幹細胞の分離と特性解析を試みた。フローサイトメトリーにより分画化した各細胞画分の腫瘍形成能を評価した所、CD133+CD44+細胞においては僅か100細胞の移植で腫瘍が形成され、高い腫瘍形成能が示された。また、NOD/SCIDマウス皮下で作成した移植片におけるフローサイトメトリー解析の結果、移植片では原発巣と比較し優位にCD133+CD44+細胞の割合が増加しており、腫瘍再構築の際にも重要な役割を示している可能性が示唆された。次いで、分画化した細胞に対して正常な腸管幹細胞マーカーであるLGR5の発現解析を行ったところ、症例毎にLGR5の発現がばらついたものの、167例における予後解析ではCD133,CD44,LGR5の発現が高い症例において優位に予後不良であった。 これらの事からCD133+CD44+細胞は癌幹細胞の可能性が高く、CD133、CD44、LGR5の発現は予後予測因子として重要であると考えられた。
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