研究概要 |
外科手術侵襲後の生体防御反応および術後合併症の発症頻度には,性差があることを,さらに術前では,脂肪組織から産生され種々の生理活性を有するアディポサイトカインであるレプチンやアディポネクチン値は男性に比して女性が有意に高値であることを報告してきた.消化器外科手術侵襲後の生体防御反応および術後合併症の発症の機序・病態を性差の視点から解明するために,平成21年度は,平成20年度と同様に消化器外科手術症例(食道癌,胃癌,大腸癌)を対象に,術前および術後経時的に末梢血中アディポサイトカイン(レプチン,アディポネクチン),炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-6),性ホルモン値(17βestradiol, testosterone, DHEA)を測定し,さらに術中に内臓脂肪と皮下脂肪を採取し,侵襲によるレプチン,アディポネクチン,サイトカイン,ケモカインのmRNAを測定した.消化器癌患者の術前アディポネクチン値とレプチン値は,男性患者の値より女性患者の値に比して低値を示し,性差が認められたが術後の変動には差はなかった.術後の炎症性サイトカイン値では,男性患者の値は女性患者の値よりの有意に高値を示し,術後合併症の発生頻度も男性症例が女性症例よりも有意に高かった.性ホルモン値では,男性症例で合併症を併発した症例の17βestradiol/testosterone比は術後低値を持続するのに対し,合併症を併発しなかった症例では有意に高値を示した.内臓脂肪と皮下脂肪のアディポネクチン,サイトカイン,ケモカインのmRNAは解析中である.平成22年度は,手術患者にPPARγアゴニストを投与し,周術期の血中アディポサイトカイン濃度,サイトカイン・ケモカイン,性ホルモン値を測定する.術前の脂質栄養代謝の改善が術後の炎症性メディエーター産生を制御し術後合併症を予防できるのかを検討する予定である.
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