機能不全に陥った細胞、組織、臓器を持つ患者への究極の医療の一つに移植があり、移植を希望する患者(レシピェント)の数とドナーの数に大きな差があり、その改善策の一つとして、昨年秋の国会で臓器移植法の改正案が可決された。また、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)が、A、B、Cのそれぞれ約30種類、60種類および10種類からなり、約2万人に1人しか一致しないと言われ、生理的反応である拒絶反応を防ぐために、レシピエントは強い副作用のある非特異的な免疫抑制剤を飲み続けており、その副作用による感染症で死亡する例も報告されている。移植医療に於ける夢は、この移植拒絶反応を、オーダーメイド(ドナーのMHC特異的)に、そして、免疫抑制などの副作用なく阻害することである。 今年度、マウスでの黄金ペアーであるC57BL/6(H-2K^bD^b)マウスとBALB/c(H-2K^dD^d)マウスでの組み合わせで、臨床的薬剤の開発のために、リガンド(H-2K^d)と受容体(MMR2)の相互作用(移植拒絶に繋がる)を制御する相補ペプチドの構造決定を(株)蛋白科学研究所に、ペプチド合成をInvitrogenに依頼し、取得した。リガンド発現細胞の樹立に成功し、現在、MMR2発現細胞の樹立を試みている。一方、マウスMMR2のヒトホモログをコードするcDNAを単離し、そのリガンド(HLA-B15)も同定した。 本実験中に、マウスやヒトで、自分のMHCと生来持っている受容体との間に重要なルール(自己のMHCに対するMMRは持たない。)が見つかった。そのルールに従うと、ヒトMMR2に少なくとも3種類のHLAがリガンドになる可能性が示唆された。今後、意外と少ない数の世界人類のHLAに対する受容体の構造を明らかにし、オーダーメイドに、そして、免疫抑制などの副作用なく拒絶反応を制御したい。
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