研究課題
本年は、3年間の予定の基盤研究Cの最終年である。我々は細胞増殖・癌化に重要なc-myc遺伝子について、その転写抑制メカニズムや発がんとの関係を10年以上にわたって研究・解明してきた。c-Myc高発現の癌(大腸癌)の癌化のメカニズムとしてc-myc遺伝子転写抑制能を欠損したFIRスプライシングバリアントが癌特異的に発現することにより正常型FIRの機能を障害しc-Myc発現増大とアポトーシス誘導阻害が同時にもたらされていることを見出した。つまりFIRはc-myc転写抑制により癌細胞にアポトーシスを誘導すること、FIRが癌治療に応用可能である(Matsushita K, et al.Cancer Res.2006)。さらに近年FIR(PUF60)はスプライシング因子SF3b155に直接結合していて(Corsini,JBC2008)遺伝子のスプライシングに関与することが報告された。これらのことからFIRはc-Myc低発現の癌ではスプライシング変異を起こすことにより癌化に関与するメカニズムが考えられ、論文作成を行った。以上よりFIRはc-myc遺伝子の発現抑制と癌特異的スプライシングバリアントの双方に関与する癌治療の有力な分子標的候補である。本研究の進展により、化合物アレイを用いてFIRタンパク質およびFIRのスプライシングバリアントに結合する化合物を探索し、その活性評価を行う目的で、理化学研究所(和光市)と千葉大学との共同研究契約が完了した。すなわち、長田裕之氏、近藤恭光氏(長田抗生物質研究室主任研究員)においてFIRタンパク質等に結合する小分子化合物のスクリーニングを行い、FIR結合小分子化合物の活性評価を千葉大学の当研究室(分子病態解析学)で役割分担して実施し新規の抗癌剤候補を複数同定した。
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