「研究の目的」 腫瘍組織でのHIF-1αの発現制御におけるLOXの役割を、UPCの関与と血管新生因子の観点から明らかにし、癌細胞の局所浸潤や転移形成に与える分子メカニズム的影響を明らかにする。低酸素環境下での培養癌細胞株におけるHMGB1産生とRAGE発現変化の分子機構を、その転写補助、転写抑制因子などとともに明らかにし、腫瘍細胞の血管新生に関与する増殖因子やサイトカインの誘導におよぼす影響をUPCの発現とHIF-1αの安定化と関連付け、その分子機構を明らかにする。 「研究の進捗状況」 ヒト腫瘍組織を材料とした研究では、手術摘出された標本の一部を凍結し、原発・転移巣別にHIF-1α発現の差異を検討するための免疫組織染色を行った。Lox発現に関しては、ヒト肝腫瘍組織での発現は認めたが、組織型などでは一定の傾向が見いだせないので、今後研究手法の見直しを要する。 膵臓癌細胞株の低酸素誘導上皮間葉移行におけるHIF-1α役割について、N-acetylcysteinによる抑制効果からその機序を検討した。N-acetylcysteinはPanc-1ならびにMiaPaCa-2株の低酸素培養において、SlugとSnail発現の抑制によりその上皮間葉移行と浸潤能を抑制した(下條他:第68回日本癌学会学術総会2009年)。この知見をもとに、N-acetylcysteinが低酸素環境において細胞内HIF-1α発現や活性酸素産生に及ぼす影響を、Slugなど上皮間葉移行の調節因子の動態から検討を重ねている。
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