研究概要 |
乳癌におけるER, PR, HER2 statusは内分泌治療及び抗HER2療法の重要な効果予測因子である。しかし,ER陰性,PR陰性,HER2陰性のtriple negative(TN)乳癌は悪性度が高く,予後不良であるものの有効な標的治療が確立されておらず,新たな治療標的同定のためにその分子機序の解明は重要である。TN乳癌はbasal-like乳癌に種々の特徴がほぼ一致し,basal-like乳癌の遺伝子発現プロファイルはBRCA1変異による家族性乳癌と酷似することから,BRCA1経路の機能不全がTN乳癌やbasal-like乳癌を来す原因と考えられている。本研究ではTN乳癌とBRCA1機能異常や染色体不安定性,悪性度との関連について解析した。(1)BRCA1 LOHやBRCA1 mRNA発現低下はER, PR陰性群,核グレード3で高頻度であり,高悪性度と関連していた。興味深いことにBRCA1 LOHを認める症例ではBRCA2 LOHの頻度も有意に高く,BRCA1, BRCA2ともにLOHを認める症例では有意にTN乳癌が多かった。全症例を対象にした解析ではBRCA1 LOHを認める症例群の予後は有意に不良であり,多変量解析でも独立した予後不良因子だった。サブタイプ別の解析ではluminal A群,TN群でBRCA1 LOH群は予後不良であり,TN乳癌の予後因子となることが示唆された。また,BRCA1, BRCA2ともにLOHを認める症例は最も予後不良であった。(2)TN乳癌ではほかのサブタイプよりLOHの頻度が有意に高く,悪性度と関連していることが明らかにしたが,特にBRCAI変異家族性乳癌でLOHの頻度が高いとされる遺伝子座でのLOH頻度が高く,TN乳癌とBRCA1経路機能不全との関連が示唆された。今後さらにTN乳癌の生物学的特性を解明し,新たな治療標的を探索する予定である。
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