研究概要 |
ER陰性,PR陰性,HER2陰性のtriple negative(TN)乳癌は悪性度が高く,予後不良であるものの有効な標的治療が確立されておらず,新たな治療標的同定のためにその分子機序の解明は重要である。TN乳癌はbasal-like乳癌と共通点が多く,basal-like乳癌の遺伝子発現プロファイルはBRCA1変異家族性乳癌と酷似することから,BRCA1経路の機能不全とTN乳癌との関連が注目されている。本研究ではTN乳癌とBRCA/Fanconi anemia (FA)経路の異常との関連について解析した。1.BRCA1, BRCA2 LOHの解析:(1)BRCA1 LOHはER, PR陰性,高核グレードと関連していた。(2)BRCA2にのみLOHを認める症例の生物学的特徴はBRCA1, BRCA2ともにLOHを認めない症例と有意な差は認められなかった。(3)BRCA1, BRCA2ともにLOHを認める症例ではより悪性度が高く、TN乳癌の頻度が高かった。(4)BRCA1, BRCA2ともにLOHを認める症例の生物学的特徴はBRCA1にのみLOHを認める症例と共通点が非常に多く、BRCA1にLOHを生じた乳癌では染色体不安定性が高度となり、BRCA2など他の遺伝子座にもLOHを生じやすくなる可能性が示唆された。(5)TN乳癌では種々の遺伝子座のLOHの頻度が有意に高く,悪性度と関連していることが明らかにしたが,特にBRCAIにLOHを認める症例ではTP53, PTEN, MSH2など他の遺伝子座でのLOHの頻度が有意に高かった。(6)多変量解析ではBRCAIのLOHは独立した予後不良因子だった。2.FANCJ発:FANCJ mRNA発現はTN乳癌で有意に高く、ER陰性、高悪性度と関連していた。以上よりTN乳癌の中にはBRCA/FA経路の異常が関与する症例が多く、治療戦略上考慮すべき因子であると考えられる。
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