研究概要 |
真皮脂肪片移植は1953年にBames,1959年にWatsonらが真皮脂肪片を豊胸術に使用し,その有用性を報告している.長期的には予想外の吸収により萎縮してしまうことがあるため正確な萎縮量を予測することは困難であるとされている.一方,脂肪組織の吸収・萎縮は移植後数週間のうちに起こるが,その後の容量は永続するという報告もある.豚を用いた実験系では移植後8週間で,移植した脂肪片の33%が消失する.しかし,組織学的に脂肪組織は線維性組織に置換されていたが,脂肪組織としての柔軟性は保持されていた.移植片の萎縮の原因として過剰に採取された脂肪,移植片に対する術中の粗雑な扱い,術後の出血,感染,不適切な固定などが上げられている.移植片の生着はすべて真皮側のrevascularizationにより成立し,ある程度の萎縮は避けられないため,初回移植時に目的とする容量の10-40%増の分量を移植することが推奨される.以上の点を踏まえ,主に形成外科領域では安全かつ簡便に行われている手技である自家遊離真皮脂肪片移植法を乳癌の外科治療の領域に導入し一期的応用する点が,これまでに国内外でみられない新しい手技手法である.さらに実験モデルを作成し,自家遊離真皮脂肪片移植法の生着,萎縮機序を血管新生,リンパ管新生,アポトーシスなどの観点から分子生物学的に解明し,エビデンスに基づく手術法として確立することはこれまでにない新しい試みである.さらに萎縮に対する血管新生因子や増殖因子の投与が有効であるか明らかにしていく.
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