乳癌患者のホルモン療法、抗HER2療法に対する治療効果を予測するため、乳癌組織におけるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の発現が臨床の場でルーチンに検査されている。これら3因子すべてが陰性の乳癌がトリプルネガティブ(以下TN)乳癌と呼ばれている。TN乳癌は、ホルモン療法や抗HER2療法が無効であり、抗癌化学療法のみが治療に用いられているが、生物学的悪性度が高く、早期に遠隔転移を起こしやすく、きわめて予後が悪い。そのためTN乳癌の新たな治療法の開発が急務となっている。我々は、intrinsic subtypeの4つのサブタイプを網羅する乳癌細胞株パネルを用い、DNA傷害性薬剤や分子標的薬剤の細胞増殖抑制効果、細胞周期やアポトーシスに与える影響を系統的に解析した。さらに、これらの薬剤の癌幹細胞(ALDH1発現・酵素活性をマーカーとした)に与える影響を検討した。その結果、epithelial-mesenchymal transitionを示すTN乳癌細胞株(basal B type)は、Srcシグナル伝達阻害薬dasatinib (G1-S移行阻害とアポトーシス誘導)やDNA障害性薬剤etoposide(G2/M移行阻害とアポトーシス誘導)に対して感受性が高く、両者の併用が相加的に働くこと都判明した。さらに、dasatinibがbasal B type乳癌細胞に対し、癌幹細胞の構成比率を低下させることが世界で初めて示された。今後は、乳癌標本におけるSrcシグナル伝達の活性化の検討、PARP1阻害薬の前臨床試験を進める予定である。
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