食道扁平上皮癌(ESCC)の「分子標的治療」を実現するための標的遺伝子候補の同定を目的に、アレイ技術を基盤に蓄積するゲノム異常領域内の遺伝子群やエピゲノム異常を示す遺伝子群から、これらの遺伝子異常を検出した細胞株を用いた機能解析と多数の臨床例における発現解析により、網羅的かつ効率的に「ESCCのアキレス腱となり得る遺伝子」の異常の同定を以下のとおり進めた。 1.CGHアレイ法あるいはエピゲノム異常検出による癌のゲノムコピー数異常解析 ESCC43細胞株を対象にした高密度オリゴアレイ(Agilent 244K)を用いたアレイCGH解析により、ホモ欠失領域、遺伝子増幅領域の詳細なマッピングを行い、異常領域内に座位する標的遺伝子候補を選択した。ESCC以外の癌、特に口腔癌(OSCC)など扁平上皮癌でも同様のアプローチを進めた。 2.標的遺伝子候補の臨床病理学的並びに生物学的意義の解明 選択した標的遺伝子候補に関して、定量的リアルタイムPCR法などによる細胞株・臨床検体におけるmRNA発現の評価や、臨床検体の組織染色による発現量と臨床病理学的因子との相関の解析を行うとともに、遺伝子のsiRNAによるノックダウンや強制発現系が細胞増殖に及ぼす効果について細胞株を用いて解析した。その結果、癌遺伝子中毒を示す増幅標的の癌遺伝子候補としてとしてSMYD2(ESCC)やPAK4(OSCC)を、ホモ欠失やDNAメチル化により発現消失する癌抑制遺伝子候補としてPCDH17を同定し報告した。これらの遺伝子は、新規の診断マーカー、治療標的となりうることが示された。
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