研究課題
胃癌性腹膜炎は、再発死亡の半数を占めるQOLを著しく損なう早期発見困難の難治性の病態であるが、いまだ効果的な治療法は見出されていない。我々は、ケモカインCXCL12/CXCR4 axisが本病態形成に深く関与することを初めて明らかにした(Cancer Res 2006)。最終年度となる今年度は、これまでの検討で明らかとなった、癌性腹水中に多量に存在し胃癌細胞に強い増殖作用を有するCXCL12のほかEGFRリガンド(HB-EGF,Amphiregulin)の癌性腹膜炎発症進展への関与を、癌病態の増悪との相関が報告されている癌微小環境(癌間質細胞)の面からも分子生物学的に検討した。まず、EGFRリガンドであるHB-EGF,Amphiregulinには、CXCL12にともにCXCR4発現胃癌細胞に対する強力な増殖・遊走ならびにCXCR4の発現亢進作用があることが判明した。Amphiregulinはとくに胃癌細胞に対する強力な増殖作用が有り(EGFR(HER1)が主に関与)、一方、HB-EGFには非常に強力な線維芽細胞の遊走・増殖作用があった(HER4が主に関与)。これら増殖因子の産生誘導機序についての検討では、Amphiregulinは、パラクリンに恒常的に線維芽細胞から産生誘導分泌され、またオートクリンにはこれら増殖因子が個々の刺激により産生誘導されるが、とくにHB-EGF+CXCL12によりTACE(ADAM17)の活性化を介して相乗的な産生誘導分泌が起こることが判明した。マウスXenograft癌性腹膜炎発症モデルを用いた検討で、抗ヒトEGFR抗体投与(Cetuximab)により癌性腹膜炎形成が有意に抑制され、生存期間の延長が得られた。このことから、EGFRリガンド(HB-EGF、Amphiregulin)の胃癌腹膜播種形成への深い関与が初めて明らかとなった。さらにCXCL12/CXCR4 axisとも相互の活性化を通じて本病態形成進展へと導くものと推察された。本研究により、これまでメカニズムならびに治療法のなかった胃癌性腹膜炎に対して、微小環境を配慮した新たな分子標的治療法開発につながるものと期待される。
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Clinical Cancer Research
巻: In press
Transworld Research Network
巻: 37,661(2) ページ: 103-113