研究概要 |
研究者らが着目していたL1が、本研究の黎明期の段階でgliomaのstem cell markerであることが報告された(Bao S et al. Targeting cancer stem cells through L1CAM suppresses glioma growth. Cancer Res 2008, 68:6043-8)ので、L1が今年度の研究の標的の中心となった。まず、胃癌細胞株において、L1の発現をWestern blotting法で確認した。次いで、胃癌切除標本の癌部,非癌部で、RT-PCR法によりL1の発現を調査し、適切なカットオフ値を設定した場合、癌部/非癌部比が高い症例は予後不良であることを突き止めた。並行して、免疫染色で深達度T3に限った胃癌原発巣と、肝転移、腹膜転移組織、そして、(参考までに)既に文献で報告されている大腸癌原発巣におけるL1の発現局在を調査した。大腸癌では染色陽性の症例全例において腫瘍先進部でも選択的に染色されており、文献で報告されているL1のinvasion, metastasisにおける役割が示されたが、胃癌では腫瘍先進部が染色される症例は少なかった。腹膜転移・再発、腹腔内遊離癌細胞の検出状況とL1発現の相関は認めず、腹膜転移巣ではほとんど染色されなかった。にもかかわらず、T3胃癌全例、とりわけ低分化型腺癌において、L1染色陽性例は有意に予後不良であった。 さらに、胃癌腹腔洗浄液由来のcDNAで同じくRT-PCR法でL1, CD133, CEAの発現を定量した。CEAは以前からわかっているように癌細胞に比較的特異的なマーカーとして癌細胞の検出に役立ち、発現陽性例は深達度が深く、腹膜転移再発と相関したが、L1はこのような臨床病理学的因子とまったく相関せず、腹腔内においては非癌細胞でも発現していて細胞の検出には役に立たないものと思われた。 臨床検体からの細胞培養、stem cell marker陽性細胞の分離等は成功しなかったが、ひきつづき次年度に挑戦することとする。
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