研究概要 |
今年度も引き続き、stem cell markerの候補遺伝子のうち、L1CAMの理解を深める研究を継続した。 胃癌培養細胞株KATOIIIにおけるL1のmRNA発現がsiRNA法で抑制されることは既に示したが、今年は蛋白レベルでも抑制されていることをWestern blotting法により確認した。また、同じく胃癌培養細胞株AZ521においても、siRNA法でmRNA、蛋白レベルでL1の発現が低下することを確認した。 昨年、KATOIIIのL1抑制株では、細胞の増殖および遊走が抑制されることを示したが、過去の報告(Steve Silletti et al. JBC. 2004)によるとこれらの現象はp-ERI(を介して起こることが示されている。今回、L1を抑制することによってp-ERKの発現が低下していることを確認した。さらに、親株とsiRNA法によるL1抑制株において0.05%FBs存在下で飢餓状態にした上10%FBSで刺激することによって、p-ERK pathwayを活性化させた状態でその発現の違いを確認した。すると、刺激後10分、30分、120分の段階で、L1抑制株ではtotal-ERKの発現は変わらないにもかかわらず、p-ERKが明らかに減弱していることがわかった。また、他の細胞増殖を司る回路としてAkt pathwayがあげられるが、p-Aktの発現はKATOIII, AZ521いずれの培養細胞株でもL1を抑制することによる変化は見られなかった。以上より、胃癌培養細胞株を用いた実験において、過去に報告されている他癌種と同様、L1による細胞増殖や遊走機能の促進は、p-ERKを介して起こっていることがわかった。 次に、siRNA法によりL1をknockdownしたKATOIIIにおいて、microarrayでL1抑制株における有意な発現低下が認められていた分子のうち、apoptosisの調節に関わると言われるDYRK1AのmRNA発現が別途培養したL1抑制株解析により、実際に親株より著しく低下していることをRT-PCR法で確認した。さらにL1抑制株においては、胃癌幹細胞マーカーの一つといわれるCD44の発現が抑えられることをFACSにより示した。 以上より、L1はapoptosisや癌幹細胞と関連があることが示唆された。
|