研究概要 |
研究の目的:食道癌は治療に難渋し、予後も極めて悪い。気管、肺、大動脈へ浸潤した進行食道癌は、手術適応でなく、放射線化学療法(Chemo-radiotherapy ; CRT)が第一選択となる。進行、再発食道癌において、CRTの感度増強と副作用軽減は食道癌治療において急務である。NFκB siRNAとCRTの併用により、安全で腫瘍の縮小効果を最大限に引き出せるシステムの開発が研究の目的である。 本年度の実施計画と結果: 1. 免疫染色:過去に切除された食道癌標本のブロックから切片を切り出し、食道癌組織におけるNFκBタンパクの発現を免疫染色によって確認する。 結果;1982年から1997年まで、教室で手術が施行された食道扁平上皮癌109例の癌組織標本でNFκBの免疫組織染色を行った。NFκB陽性は65例(59.6%)に認められた。NFκB蛋白発現と、癌の深達、リンパ節転移が相関した。進行度II, III症例68例の予後をNFκB陽性、陰性で比較した。5年生存率は、NFκB陽性例(34例)で18%、陰性例(34例)で32%。有意の差ではないがNFκB陽性例の予後は不良で(P=0.058)、癌細胞におけるNFκB発現が食道癌の悪性度を推し量る指標となりうる可能性が示唆された。 2. 培養細胞を用いた研究:食道癌細胞におけるNFκB蛋白の発現とNFκB siRNAの作用を培養細胞株において検討した。 結果;TE-4、TE-8食道癌細胞を培養し、NFκB蛋白が癌細胞質に発現することを確認した。この細胞にNFκB siRNAを作用させると、NFκB蛋白発現は著名に抑制され、癌細胞はアポトーシスに陥り、増殖が抑制された。さらにこの細胞に、制癌剤である5-FUを単独で作用させても癌細胞の増殖は抑制されたが、5-FUにNFκB siRNAを加えて作用させると、癌細胞の増殖は相加的に抑制されており、NFκB siRNAの食道癌抑制効果が示唆された。
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