研究の目的:進行食道癌における化学療法の感度増強と副作用軽減の目的で、NFκB siRNAと制癌剤の併用により、安全で腫瘍の縮小効果を最大限に引き出せるシステムの開発を行った。 本年度の実施計画と結果 培養細胞を用いた研究をさらに発展させた。前年度の研究において、食道癌細胞におけるNFκB蛋白の発現とNFκB siRNAの作用を培養細胞株において検討し、TE-4、TE-8食道癌細胞株において、NFκB蛋白が癌細胞質に発現すること、この細胞にNFκB siRNAを作用させると、NFκB蛋白発現は著名に抑制され、癌細胞はアポトーシスに陥り、増殖が抑制されることを確認した。しかし、実際の臨床の場では、食道上皮は様々な外的刺激にさらされている。食道癌組織のNFκBに対する免疫組織染色では、NFκB発現は細胞核に認められるが、培養細胞ではNFκB発現は全て細胞質であった。実際の臨床と培養細胞では環境が全くことなることが判明し、今回は、培養液にTNF-αを加え、培養細胞に外的刺激が加わる条件を付加して、NFκB siRNAを作用させた。TNF-αを培養液に添加すると、培養癌細胞の細胞質に発現していたNFκBが癌細胞核へ移行した。TNF-αを作用させ、NFκBが癌細胞核へ移行した癌細胞は、5-FUの治療に抵抗性を示し、癌細胞の増殖抑制は限定された状態であったが、これにNFκB siRNAを作用させると、癌細胞は再びアポトーシスに陥り、増殖は抑制された。 以上の結果より、実臨床では食道癌細胞は様々な外的刺激を受け、その常態下では、NFκBは癌細胞核に移行しており、通常の制癌剤や放射線治療に抵抗性を示すと考えられる。TNF-αの存在下でも、NFκB siRNAはNFκB蛋白の発現を抑制し、癌細胞増殖を抑制した。NFκB siRNAの臨床応用への道筋を示すことができたと考えられる。
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