本研究の目的は、一般的に「低侵襲」と考えられている腹腔鏡手術が本当に低侵襲なのか、またその低侵襲であるメカニズムは何なのかを明らかにすることである。さらにはこのメカニズムを解明することで腹腔鏡手術をより低侵襲で腫瘍学的にも優れた手術に発展させることを目的としている。 まず、私共はブタを用いて炭酸ガス気腹の肝機能に及ぼす影響を解析した。炭酸ガスによる気腹によって腹腔内は高度のアシドーシス状態となり、それに伴って門脈血のpHも低下することを明らかとした。さらにこれらの影響で肝臓の代謝を反映していると考えられるケトン体比などの肝機能も影響を受けていた。組織学的には中心静脈周囲を中心に脂肪変性などの病理的変化が起こっていた。これらの結果は炭酸ガスによる気腹が肝機能に悪影響を与えているという結果である。しかし、進行癌手術に際してこれらの因子は転移を抑制する方向に働く可能性も考えられた。 次に培養細胞を用いて、炭酸ガス気腹環境を再現できる装置を用いて細胞の運動能や浸潤能を観察した。炭酸ガスによる気腹によって細胞の運動能・浸潤能ともに低下していた。これらの現象は癌の転移・再発を抑制する方向に働く可能性があると考えた。 上記の結果を踏まえて、現在、ラット気腹モデルを作成し、低酸素応答・アシドーシス応答に重要な役割を果たす転写因子HIFの気腹下での発現を解析中である。また、培養細胞を用いて気腹による細胞運動能・浸潤の低下の分子機構および癒着に関与するPAIなどの発現変化の解析を行っている。
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