研究概要 |
大腸癌の前がん病変である腺腫は、その肉眼的形態の特徴からpolypoid type (PT)とlaterally spreading tumor (LST)に分かれる。LSTの形態学的特徴に正常粘膜細胞に置き換わるように腺腫細胞が増殖し、その極性が保たれたまま腺腫化することにある。Atypical protein kinase C lambda/iota(以下aPKC)は細胞分裂に関わると同時に細胞極性に関わり器官形成に重要な役割を果たすとされ、最近ではその発現の変化が様々な組織の癌化に繋がることが報告されている。今回我々はLSTの極性の維持とaPKC発現の関係をPTとの比較から検討した。【対象と方法】対象は当施設で1998年から2007年の間に切除されたLST30(腺腫8、腺腫内癌9、浸潤癌13)とPT20(腺腫11、腺腫内癌9)である。極性の確認としてbeta-catenin、E-cadherin、type IV collagenの免疫染色を行い、またaPKC lambda/iotaの発現を免疫染色(23PKCl ambda/iota BD Transduction Laboratories, USA were used as primary antibodies)で確認した。それぞれの染色性については細胞内の染色部位、染色強度などからgradingを行い比較した。【結果】beta-cateninは腺腫に関してはLST、PTとも細胞膜に局在を示したが、PTの腺腫内癌の50%で核内移行を示した。一方LSTの腺腫内癌では10%にとどまった。E-cadherinに関しても同様の傾向であった。またtype IV collagenはLST、LST腺腫内癌では70%以上が維持されていたが、PTの腺腫では30%、腺腫内癌では維持されているものはなかった。aPKC発現はLST腺腫/腺腫内癌で1+が87.5%/55.6%であったが、PT腺腫/腺腫内癌では2+以上が50%/99.7%を占めた。【結論】PTでは腺腫の時期からType IV collagenの消失などの極性の消失が始まることが示唆されたが、LSTでは腺腫内癌でも比較的維持されていることが示された。一方aPKC発現はLSTの腺腫、腺腫内癌では弱く、PTでは強く発現することから、極性の変化に伴ってその発現強度を増すことが示唆された。
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