研究概要 |
昨年度に引き続き、癌幹細胞微小環境に影響を及ぼす因子として脂肪酸と癌幹細胞について検討を行った。リノール酸(LA)とオレイン酸のトランス体であるエライジン酸(EA)について、大腸癌の転移能に与える影響を検討した。LAは癌細胞に抑制性に作用し転移を抑制する反面、ドーマンシーを誘導する可能性が認められた。一方、EAでは癌細胞の増殖・生存さらに転移形成が亢進していた。このような両者の差異に関して、癌幹細胞への作用に注目し検討を行った。LAあるいはEAを処理しつっsphere assayを行うとエライジン酸で著明なsphere形成の促進が見られたが、LA・EA酸処理後の細胞を用いてsphere培養を行うと、LA酸処理でより多くのsphereが形成された。CD133, nucleostemin (NS)の発現を検討すると、単層培養系ではLA処理のみでNSの発現が誘導されたが、sphere assayでは、LA処理ではCD133, NS、EAではNSの発現が見られた。さらに、LA処理では、Nanog, Lin28の発現が誘導されたが、EAでは認められなかった。このように、LAとEAは異なった癌幹細胞への生理活性を有し、癌転移に異なった影響を与えることが示唆された。一方、LAにより癌幹細胞を増加させた後、温熱療法(42℃,30分)施行時の癌細胞におけるCD133, NSの発現を検討すると、いずれも低下しており、sphere培養でもその数は減少した。このことから、温熱療法は癌幹細胞抑制効果を有することが示唆された。
|