大腸癌培養細胞を43℃で1時間処理し、その後の癌細胞の再増殖を検討すると、壊死細胞が残存する培養液を交換しないときには残存する癌細胞の増殖は通常の培養条件よりも亢進していた。さらに、この壊死細胞を含む培養液をろ過し通常の培養細胞に加えると増殖速度は促進された。このことから、癌細胞は温熱による壊死により細胞増殖性の液性因子を放出する可能性が認められた。温熱処理後の培養液中の蛋白質で未処理の培養液と比較し著明に増加しているものにHMGB1が見られた。大腸癌細胞をBALB/cマウスの背部両側皮下に接種し、腫瘍形成後に一方の腫瘍に温熱を加えし、対側の腫瘍増殖への影響を検討した。血清HMGB1は温熱処理後では156ng/ml(未処理15ng/ml)に著増した。温熱処理後の腫瘍増殖は注入側・対側ともに増大していたが、温熱処理後抗HMGB1抗体を投与すると腫瘍増殖促進作用は消失した。温熱処理による腫瘍増殖促進効果は肺転移モデル・肝転移モデルにおいても認められ、抗HMGB1抗体投与により消失した。さらに、対側癌細胞にリノール酸長期処理による休止期細胞を接種した場合、温熱療法では対側に腫瘍形成が見られた。このように、温熱療法では壊死によるHMGB1放出のため、残存する腫瘍細胞の再増殖を促進し、また、転移巣の活性化を生じる可能性が見られた。一方、温熱処理を42℃・15分にすると、培養液中のHMGB1増加はごく軽度であり、腫瘍細胞にはアポトーシスが10-20%に誘導された。一方、未処理細胞と温熱処理細胞のsphere assay形成能を比較すると温熱により低下しており、また、RT-PCRではNS発現が抑制されていた。このように条件の弱い温熱においては癌幹細胞抑制効果が認められた。温熱処理の条件を工夫することにより。腫瘍縮小と癌幹細胞の抑制を達成しうる可能性が示唆された。
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