Fascin蛋白は染色体7p22よりコードされる493アミノ酸よりなる球状のactin-binding proteinであり、正常の間葉組織、神経組織に発現、アクチン束を平行に結合させることで、lamellipodiaやfilopodiaを形成し、細胞運動・浸潤に関わっていると考えられている。これまでに、大腸癌、口腔扁平上皮癌、胃癌、食道癌、乳癌などの各種固形癌においてFascinの発現と臨床病理学的因子ならびに予後との関連が報告されるなど、Fascin蛋白はヒト癌の脱分化、増殖能に関わっていることが推測され、発癌、進展、転移に対する分子標的治療のターゲットとして期待されている。そこで、今回肝細胞癌におけるFascin蛋白の動態を解明し、その浸潤・転移メカニズムを詳細に明らかにし、さらには進行肝癌症例の分子標的治療治療の開発を目的とし研究を計画した。 平成20年度は肝細胞癌におけるFascin蛋白の発現の多寡を評価するため、まず免疫組織化学染色の条件設定を、ヒト肝細胞癌切除標本パラフィン包埋切片にて検討した。抗体はDAKO社製の抗ヒトFascinモノクローナル抗体(55K-2)を使用した。キシレンおよびエタノールにて脱パラフィン処理し、マイクロ波にて抗原賦活処理を施行。4℃にて約12時間の一次抗体反応後、SAB法にて染色した。これらの反応により非癌部組織に比較し、肝癌組織でのFascin蛋白質の染色性が亢進していることが確認された。 現在、62例の肝細胞癌肝切除症例を対象として、免疫組織学的な検討を進めている。今後、Fascin蛋白質の発現の多寡と臨床病理学的因子との関連を検討し、その発現の臨床的意義を確認し、その後検討へとつなげていく予定である。
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