研究概要 |
本研究の目的は(1)肝切除によるゲムシタビン代謝動態の変化を明らかにし、(2)肝切除後の胆道癌補助化学療法として適切なゲムシタビン投与方法を検討することにある。一年目は(1)Higgins & Andersonのラット70%肝切除を施行し肝再生を確認した。このデータから切除肝の再生率が50-70%にとどまる術後48時間で塩酸ゲムシタビンを投与するのが研究目的に最も適することを確認した。(2)体重200-230gの雄性Wistarラットを2群に分け、A群 : 70%肝切除施行群、B群 : Sham Operation群(各群n=4)の術後48時間に24mg/kgの塩酸ゲムシタビン(pH7.45±0.20)を投与した。ゲムシタビン投与2時間後(血中半減期に相当)に採血し、血中ゲムシタビン濃度(A : 8540.0±650.3*, B : 7138±266.4)、ALT(A : 505±95*, B : 55±25)、t-Bil(A : 0.14±0.01*, B : 0.03±0.01)はいずれもB群よりA群で有意に高値を示した。この結果から、肝切除術後は肝機能の一過性低下、手術侵襲の影響によりゲムシタビンのpharmacokineticsが変化して代謝速度が遅くなり、薬剤のAUCが非切除症例よりも高くなることが示された。二年目以降は(1)肝再生に伴ってゲムシタビンのphamacokineticsがさらにどう変化するかを確認する。(2)臨床において患者にゲムシタビンを投与し肝切除後の薬物動態を明らかにする。(3)その結果から、肝切除と手術侵襲、残肝機能と肝再生を考慮した適正なゲムシタビン投与計画法を確立する計画である。化学療法の分野では薬物代謝の先天的・後天的個体差を考慮した個別化治療の重要性が認識されつつある。本研究はさらに、同一個体内でも生体内外の環境変化、外科手術などの侵襲が薬物のpharmacokineticsに影響し、同一患者でも時間と共に薬物動態は常に変化することを明らかにし、周術期薬理学的な臨床評価理論を確立することによって、術後患者ひとりひとりに最も安全で有効な薬物療法の新しい方法論を構築する上で貴重な研究であると考えている。
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