研究概要 |
本研究では、(1)膵癌に対する術前樹状細胞(以下、DC)腫瘍内局注療法における、投与DCの活性化と腫瘍局所および全身での免疫反応解析、(2)腫瘍内に局注したDCの体内における動態の解析を行うことが目的であった。(1)DCの活性化に関する検討はFACSによる細胞表面マーカーの発現の比較により行い、PBMCが未熟DCを誘導できたことを確認した。また、腫瘍内DC局注後に手術で摘出した標本を用いて、DC非局注群との比較検討を行い、DC局注群において局注部の腫瘍壊死、および所属リンパ節内でCD83+細胞、FOXP3+細胞が、遠隔リンパ節ではFOXP3+細胞の集積が有意に増加していることを確認した。腫瘍内浸潤リンパ球に関する解析ではCD4+,CD8+,CD83+,FOXP3+のいずれにおいても、DC局注群での増加を認めなかった。しかし、DC局注群9例中2例において、術後5年無再発生存を認め、この2例では腫瘍壊死部内へ多くのCD8+,CD4+細胞が集積していた。(2)In標識したDCを用いて体内動態の解析を行った。全例で局注局所への集積をみとめ、5例中4例で肝臓に、1例では48時間後に上腸間膜動脈周囲リンパ節への集積を認めた。局所への集積が著しく、腫瘍近傍のリンパ節への集積の有無に関する判断は困難であった。局注下DCの動態をreal timeに評価することは困難であったが、組織学的に、所属リンパ節に成熟DCの集積を認めたことから、抗腫瘍免疫応答が惹起されている可能性が示唆された。また臨床研究として実施し、DC局注に伴う重篤な有害事象の発生もなく、術後合併症の増加も認めないことから、安全な手技であることが認識した。膵癌においてDC局注後の摘出標本を用いた解析の報告はなく、きわめて貴重なデータとなると考える。
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