研究概要 |
インスリン療法を受けている糖尿病患者では、膵島移植は血糖値の安定に寄与すると考えられる。しかし膵島移植が成功しても完全なインスリン離脱は難しい場合がある。また膵島移植には深刻なドナー不足もある。そこで、幹細胞やiPS細胞からのβ細胞への分化誘導法の研究が行われている。しかしインスリン産生能や分泌能を十分に備えた分化誘導法は未だ完全には確立されていない。また、患者への治療効果を考えると、大量の分化細胞が必要となる。近年、細胞間接着がβ細胞機能に影響することが報告されており、我々はMIN-6β細胞株を細胞低接着培養器上で3次元培養し、膵島様のスフェロイド細胞を作出し、β細胞の機能について単層培養したMIN-6細胞(単層培養細胞)と比較検討した。【結果】スフェロイド細胞では単層培養細胞に比べPDX-1,Foxa2,insulin-2,GLUT-2のmRNA発現が高値を示す傾向が認められた。グルコース応答やトルブタミド(スルホニル尿素薬)によるインスリン分泌増強効果も、スフェロイド細胞の方が有意に強いインスリン分泌反応を示した。さらにスフェロイド細胞では、トルブタミド処理で高濃度グルコースに対するAktリン酸化反応が増強したが、単層培養細胞では有意な変化は認められなかった。またインスリン分泌顆粒の膜上に局在するcaveolin-1の発現がスフェロイド細胞で増加していた。スフェロイド細胞の形態的観察では中心部の細胞がアポトーシスを呈していた。【結語】スフェロイド形成がβ細胞のインスリン分泌能やスルポニル尿素薬の感受性を変化させる事が示され、それにはAktリン酸化やcaveolin-1が関与することが示唆された。インスリン分泌細胞の機能維持と大量培養にはスフェロイド形成細胞のアポトーシスを抑制可能な培養システムが必要であることが示唆された。
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