研究課題
本年度は、まず希望被験者3人に対し対表冷却を施して浅いレベルでの深部温を測定し、そのデータからさらにシミュレーションモデルの精度を高めることでさらに脊髄レベルでの深度での冷却効果のより正確な推定を可能にすることができた。具体的には、冷却面と皮膚面の空気層を可能な限りなくし、冷却の効果がより計算値に近くなるような工夫を取り込むことが、データのばらつきを抑え、比較的安定した冷却効果を得ることができるようになったことが大きいと考えられた。しかし実際の患者で、同様に冷却してみると冷却効果には個々人により大きな差異が生じていた(全く低下しないケース、3℃以上低下したケースの存在)。これには被験者の段階との相違として、①覚醒時と麻酔時という違い、②手術時と安静時という違い、があるものと考えられた。これら二つの相違はいずれも生物であるヒトの神経的あるいは体液的(ホルモン的)なコントロールが異なっているために生じてきたものと考えられた。このことからシミュレーションモデルには、物質としてのヒトの通温性ということの他に、さらに別の複数の変数の導入が必要であることが示唆された。また結局のところ冷却効果としては予想よりも低く、対表冷却単独での治療レベルまでの低温化は現時点では困難と考えられた。今後さらに一定レベルの低温化のための臨床的な工夫、また種々の変数を導入したシミュレーションモデルの作成を今後とも継続していく方針である。