研究概要 |
心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)の安全性と有効性を向上させるため、拍動心の心表面冠動脈3次元運動を検討した。 当該年度においては交感神経ベータ受容体遮断薬の3次元運動に対する効果をヒトへの応用に先立ちブタを用いた動物実験を行った。 <方法> ブタ8頭(50.6±2.5kg)を用いた。 短時間作用型選択的ベータ1(β1)遮断薬(landiolol hydrochloride)は経静脈的に投与。当科で開発したリアルタイム三次元デジタル解析システムを用いて、各冠動脈の一拍移動距離、最大速度、最大加速度、最大減速度を算出し、1andiololの使用前後で検討した。 <結果> Landiololは0.12mg/kg/hrで持続投与した。心拍数(/min)は使用前後で、105.0±16.1から90.4±8.9(P=0.007)と有意な減少を認めた。収縮期体血圧(mmHg)は、84,8±18.3から81.2±21.9(P=0.08)と有意差はなかった。 以下に固定器具を使用下の各冠動脈の1andiolo1使用前後の結果を示す。一拍移動距離(mm)は左前下行枝(LAD):9.6±2.8vs.6.6±1.9:P=0.003, 左回旋枝(LCX):10.5±6.3vs.6.4±2.6:P=0.038, 右冠動脈(RCA):8,3±3.6vs,6,5±2.1:P=0.028であった。最大速度(mm/sec)はLAD:203.1±73.3vs.145.5±41.1:P=0.027, LCX:220.5±67.4vs.165.2±37.5:P=0,026, RCA:183.0±72.3vs.150.8±49.6:P=0.011であった。最大加速度(mm/sec2)はLAD:76.3±26,1vs.52.6±14.5=P=0.016, LCX:82.2±26.3vs.62.4±12.9:P=0.044, RCA:68.6±27.7vs.56.2±20.0:P=0.010であった。最大減速度(mm/sec2)はLAD:77.0±27.7vs.52,7±14.7=P=0.017, LCX:79.9±25,0vs.62.7±12,3:P=0.050, RCA:67.9±29.2vs.57.1±19.1:P=O.023であった。すなわち、全ての運動パラメーターが、三領域で有意に抑制された。 <結語と意義> Landiololは、収縮期体血圧を減少させず、有意に心拍数を減少させた。すべての冠動脈領域で、一拍移動距離、最大速度、最大加速度、最大減速度は有意に減少した。OPCABにおいて、landiololhydrochlorideは薬理的固定法として有用と考えられる。 <臨床応用> OPCABでは、正確な吻合にはより静止野に近い術野が必要とされる。本研究では固定器具に加えてβ1遮断薬を併用することで、残存していた動きを抑制することができた。本研究を臨床応用することでより正確な吻合が可能となると同時に、これまで固定器具のみでは静止野の確保が困難であった症例に対しても有用な手段となると考えられる。正確な吻合は安定した長期成績に繋がるため、同薬の使用はOPCABの安全性と有効性を向上させると考えられる。
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