小児・成人を問わず多くの心臓手術において心臓を停止することは必須であるがそれに続いて起こる虚血再潅流障害は重大な問題となっている。ミトコンドリアは大変重要な役割をもちその障害度が心筋細胞の運命を決定する。MPTP(mitochondrial permeability transition pore)として知られるミトコンドリア内inner membraneに存在するnon-specific poreは虚血再潅流によって開放されミトコンドリアのswellingを来たし心筋細胞を死に至らしめる。このMPTP開放を抑制することが大きな心筋保護効果をもたらす事は成熟心筋において証明されているが未熟心筋での報告は少ない。さらに近年、未熟心筋における常温下心筋保護の利点が基礎実験及び大規模な臨床データから示され今後の小児心筋保護の方向性を示唆させた。平成20に続いて21年度においてもウサギ未熟心筋を用いて常温下におけるMPTP開放阻害剤の心筋保護効果についてLangendorff modelを使用して研究した。成熟心筋で有効が証明されたMPTP開放阻害剤の投与方法と投与量ではコントロール群とMPTP開放阻害群では虚血後の心機能(LV developed pressure及び左室拡張期圧)の回復と心筋障害を示す冠静脈中の乳酸値には有意差はなく心筋保護効果は確認できなかった。未熟心筋において、MPTP阻害剤はその効果発現メカニズムによって有効度に差があるものと考えられた。これは成熟心筋では見られなかった現象である。現在も本研究は継続中で、さらに様々なMPTP開放阻害剤の種類・濃度及び投与法を検討している最中である。現段階では成熟心筋と同様のMPTP開放阻害剤投与では十分な効果は難しいことが予想される。又、平成21年度からはウサギと平行してブタ未熟心臓をin vivoで使用して(人工心肺使用)MPTP阻害剤の効果を検討している。本実験でMPTP阻害剤効果の有無をみることはウサギとの比較という点でも非常に注目される。これまでのところやはりブタでもMPTP阻害剤の効果は成熟心筋と未熟心筋では異なる結果が出ているが最終的結論を得るにはさらに来年度以降の研究が必要である。
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