心臓手術において心臓停止後に起こる虚血再潅流障害は重大な問題となっている。ミトコンドリアに存在するMPTP(mitochondrial permeability transition pore)は虚血再潅流により開放され心筋細胞を死に至らしめる。このMPTP開放を抑制することが大きな心筋保護効果をもたらす事は成熟心筋において証明されているが未熟心筋での報告は少ない。平成21年度に続いてウサギ及びブタ未熟心筋を用いて常温下におけるMPTP阻害剤の心筋保護効果についてLangendorffと人工心肺モデルを使用して研究した。ウサギ未熟心筋では成熟心筋とほぼ同じ濃度において虚血後心機能の改善効果が認められ、この心筋保護効果は冠血流への乳酸排出量の軽減効果で裏付けされた。さらに心筋切片を光学及び電子顕微鏡で観察したところ、核の委縮や細胞質I-band出現、ミトコンドリア膨化、間質浮腫など有意な障害が確認されたが、MPTP阻害剤の使用群・非使用群では明らかな差には至らなかった。この結果について研究協力者等と検討したところ、再灌流時間が不十分なことが要因として考えられ、来年度に十分な再灌流時間を取って再検討することとした。さらに我々はMPTP阻害剤の濃度を十分な範囲に渡って変更しそれぞれ心筋保護効果を検討したが、未熟心筋では心筋保護効果を示すMPTP阻害剤濃度の範囲が狭く、それ以上の濃度では逆に心筋抑制効果が出現することを確認した。この結果は未熟心臓にとってMPTP阻害剤は両刃の剣となる可能性を指摘している。又、昨年度はウサギと平行してブタ未熟心臓をin vivoで使用して(人工心肺使用モデル)MPTP阻害剤の効果を検討した。しかしながら生後2週のブタの実験はなかなか安定せず、昨年は試行錯誤が続いた。度重なる検討を行い、昨年度の最終段階において漸く実験の安定化が得られるようになってきた。ブタ実験はより臨床に近いモデルである点でも非常に注目される。ウサギ実験は最終段階にあり、この結果を踏まえて効率よくブタ実験を行うことが本年度の目標である。
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