1. 悪性胸膜中皮腫細胞株の樹立とその細胞生物学的解析 (1) 細胞株樹立:悪性胸膜中皮腫手術症例12例から胸水を採取し細胞株を樹立し得た。 (2) 遺伝子変異解析:樹立した細胞株からDNAを抽出し、癌遺伝子についてはKRAS、NRAS、BRAF、TP53の遺伝子変異を解析したが明らかな遺伝子変異を認めなかった。一方、癌抑制遺伝子の候補であるp16 INK4A遺伝子領域のホモザイガス欠失をほぼすべての細胞株で確認した。悪性胸膜中皮腫に発癌過程においてp16 INK4A遺伝子の欠失が関与している可能性が示唆された。 2. 悪性胸膜中皮腫切除症例における肺内アスベスト濃度測定 (1) 分析電子顕微鏡による肺内アスベスト線維の種類同定と濃度測定:悪性胸膜中皮腫8例の胸膜肺全摘術切除標本から、腫瘍内および肺内のアスベスト、具体的には蛇紋石族(クリソタイル)と角閃石族(アモサイトやクロシドライトなど)の濃度を分析電子顕微鏡で解析した。その結果、腫瘍内にはアスベストはほとんど含まれていないことが確認できた。また、肺内アスベスト濃度の検討により、発症リスクが高いと言われているクロシドライト(青石綿)やアモサイト(茶石綿)を高濃度に認めた症例がある一方、アスベスト濃度が職業的暴露の無い標準的な都市生活者の平均値と同程度の症例も認めた。アスベストが消化され濃度測定時には健常者レベルに低下していた可能性もあるが、一方でアスベスト以外の発癌因子が関与している可能性も示唆された。
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