腫瘍組織における慢性的な低酸素状態と担癌宿主の抗腫瘍免疫応答の低下との関連について、特に低酸素状態において発現誘導される転写因子Hypoxia-inducible factor-1(HIF-1)と抗腫瘍免疫応答の低下を誘導するサイトカインTransforming growth factor-beta(TGF-β)との関連についてマウスモデルで検討した。 1.低酸素状態における腫瘍細胞のHIF-1αとTGF-β1の蛋白レベルおよびmRNAレベルでの発現について マウス腫瘍細胞E.G7とLLC1を低酸素状態で培養するとHIF-1αとTGF-β1の蛋白レベルおよびmRNAレベルでの発現が亢進した。培養上清中にHIF-1阻害剤であるYC-1を添加するとTGF-β1の蛋白レベルおよびmRNAレベルでの発現が減弱した。 2.担癌マウスにおけるHIF-1α阻害による抗腫瘍免疫応答の変化について E.G7を皮下移植した担癌マウスモデルにおいて腫瘍組織内にHIF-1阻害剤YC-1を投与して変化する抗腫瘍免疫応答について検討した。その結果、YC-1の腫瘍内投与により腫瘍組織におけるHIF-1αとTGF-β1の蛋白レベルおよびmRNAレベルでの発現が低下した。また、腫瘍組織および腫瘍所属リンパ節内の制御性T細胞の数が減少した。さらに、脾細胞中の腫瘍抗原特異的にIFN-γを産生するCD4陽性細胞とCD8陽性細胞の割合が増加し、血清中の腫瘍抗原に対する抗体価が上昇した。YC-1の腫瘍内投与により腫瘍の増殖は著明に抑制された。腫瘍組織内のHIF-1の阻害によりTGF-β1の発現が低下し腫瘍組織および腫瘍所属リンパ節での制御性T細胞が減少したことで全身性に抗腫瘍免疫応答が増強し腫瘍の増殖抑制につながったと考えられる。
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