研究概要 |
今年度は,微乳頭腺構造を有する肺腺癌(MPP)切除例の切除標本をさらに集積するとともに,北里大学病院における肺腺癌の根治切除症例305例を再検討した結果,肺腺癌例において,細胞形態的に微乳頭腺構造を示す細胞集塊の出現している一群は,有意差はないが予後不良の傾向であった(4年生存率で68%;これに対してMPP陰性群は89%)。これは観察期間が短いためと考察された。さらに,MPP例は脈管侵襲陽性の頻度が高く,また,臨床的にリンパ節転移陰性と判断されたものであっても,術後の病理検索でその約半数にリンパ節転移が組織学的に証明された。また,病理標本の検討からは,肺癌の原発巣辺縁部において,微乳頭腺構造が目立つこと,さらに,リンパ管ならびに肺胞構造に癌細胞集塊が浮遊しているように存在すること,臓側胸膜浸潤と関連性が深いこと等の特徴が明らかとなった。このようにMPPとリンパ管侵襲ならびにリンパ節転移との関連性が深いことが判ったため,本年度は組織学的にMPPと診断された13例と対照として腺癌56例の手術検体の肺癌組織を用い,VEGF-C及びVEGF-R3の抗体を使用して免疫組織化学染色を行った。その結果,VEGF-C及びVEGF-R3ともに,微乳頭構造部分に特にover-expressionがみられた。しかし,染色性をスコア化し比較したところ、MPP群では平均3.7で,対照群の3.5と比較して有意な差はみられなかった(P=0.54)。また間質においては,対照との差は明らかとはいえなかった。これらの比較から,肺腺癌ではリンパ管新生に関連した血管新生因子が発現しており,とくに微乳頭腺構造部分でそれらが強いことから,MPPの臨床病理学的特徴を裏付ける結果が得られたと考えられた。なお,細胞培養を試みたがMPP例は細胞株の樹立が困難であり,1例樹立されたのは神経内分泌癌成分の細胞であった。
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