研究課題
病原体が生体に侵入すると、免疫系はすみやかにそれを認識し排除する。こうした侵入病原体に対する免疫応答はTLR (Toll like receptor)を中心とする自然免疫受容体が、自己には存在しない病原体特有の分子パターンを認識することで開始される。TLRファミリーの中で、TLR4はマクロファージ(中枢神経系ではマイクログリア)等の貪食能を持つ細胞の細胞膜表面に発現し、グラム陰性細菌の細胞壁成分であるリポ多糖を認識し、NF-kBやMAP kinaseの活性化を介して炎症性サイトカインやI型インターフェロン遺伝子を誘導することが知られている。これらの分子機構は微生物感染の初期防御を担う自然免疫応答に必須のシグナル系ではあるが、異常に亢進した自然免疫シグナルは慢性の炎症性疾患(例えばRAや潰瘍性大腸炎等)を引き起こす事も知られている。実際TLR4には脳虚血増悪効果があることが最近報告されており、脳虚血障害が自然免疫シグナルの異常亢進による炎症性疾患である可能性が考えられる。そこでTLR4ノックアウトマウスのhomo typeとwild typeの中大脳動脈閉塞モデルを用いて、脳梗塞量を検討した。その結果、homo typeではwild typeに比べて、虚血障害が改善し、脳梗塞量が小さくなる事が明らかとなった。また炎症性サイトカインであるIL-6やMCP-1の虚血脳での濃度が有意に減少した。更TLR4ノックアウトマウスのhomo typeとwild typeの骨髄をそれぞれ致死量の放射線を照射した正常マウスに骨髄移植後、脳虚血障害の程度を比較検討したところ、homo typeの骨髄を移植したマウスで脳梗塞量の縮小が認められた。以上の結果は骨髄由来単球・マクロファージは脳虚血障害に重要な働きをする事が明らかとなった。更に、骨髄由来単球・マクロファージにおけるTLR4を介した自然免疫機構が最も重要な分子機構であることが明らかとなった。
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